独居房に移って、初めての運動の日がやってきた。
人とまったく会話をしていない日が続いていたから、誰か知っている顔がいるかもしれないと、少しだけ楽しみに房を出た。
しかし、連れて行かれたのは、これまでの運動場とはまったく違う方向だった。
着いた場所は三階。
コンクリートでいくつかに仕切られ、出入り口だけが金網になっている空間だった。
通称、「鳥かご」と呼ばれている場所だという。
そのうちの一つの鍵が外され、中に入るよう命じられた。
入った途端、すぐに施錠された。
畳にして十畳ほどの広さ。
ぼんやり立っていると、
「じっとするな! 歩け!」
と怒鳴られた。
鶏小屋の中の鶏のように、鳥かごの中をぐるぐると歩き回る。
運動まで独りか、と落胆した。
運動が終わると部屋に戻され、また一人でじっと座って過ごす時間が始まった。
何かしないと、時間を持て余してしまう。
そのとき、雑居房にいた頃、組員の人が言っていた言葉を思い出した。
「本を読む人間は、懲役とか務めてるとき、時間を有意義に使うからな」
私はもともと本を読むのが好きだ。
まずは官本を借りて、読書をしようと決めた。
官本とは、拘置所で貸し出されている本のことだ。
早速、借りる手続きを済ませた。
その日の夕方、手紙が届いた。
差出人は、やはり組員の人だった。
彼は俳優の陣内孝則さんに似ている。
これから先は、陣さんと呼ぶことにする。
差出人と届先の住所が同じなのが、どこかおかしく、違和感があった。
陣さんは、便箋七枚にびっしりと書いていた。
今後の流れや、判決後のこと。
控訴して、過ごしやすい春になってからそれを取り下げ、懲役に行くつもりだという。
控訴すれば、高等裁判所のある地域の拘置所に移送されることになる。
そのときは手紙で知らせる、と書かれていた。
ここでの手紙には、何でもストレートに書けるわけではない。
ぼやかしたり、私たちにしか分からない隠語のような言葉で、やり取りをしなければならなかった。

コメント