277話「つながる笑顔」

「紹介するよ」

私がそう言うと、リトは車から降りてきた早苗を見た瞬間、目を丸くした。

「アッ……!」

驚いたような表情を浮かべたあと、すぐに満面の笑みになる。

「サナエ!」

私は笑って頷いた。

「リト、紹介する。早苗だよ」

早苗は私の隣に立ち、優しく頭を下げた。

「初めまして。早苗です。いつもリトさんのお話は聞いてます」

するとリトは嬉しそうに早苗の前へ歩み寄った。

「私もサナエの話はナオトからイッパイ聞いてるヨ! 会えて嬉しいヨ!」

そう言って右手を差し出す。

早苗も笑顔で右手を差し出した。

握手を交わしたその瞬間、リトは早苗の手をそっと持ち上げた。

「えっ?」

少し驚く早苗。

リトは手の甲へ口を近づける。

――と思った次の瞬間。

くるりと自分の手を返し、自分の手の甲へ軽くキスをした。

「ハハッ!」

いたずらが成功した子どものような笑顔を浮かべるリト。

私と早苗は顔を見合わせると、思わず吹き出した。

「もう、びっくりした!」

早苗が笑いながら言う。

「ジョーダン、ジョーダン!」

リトも楽しそうに笑った。

さっきまで少し緊張していた早苗の表情は、もうすっかりほぐれていた。

私は二人を見て自然と笑みがこぼれる。

「それじゃ行こうか」

三人で車へ乗り込み、焼肉屋へ向かった。

車を走らせながら私は後部座席のリトへ声を掛ける。

「今日は店に入った新しいスタッフと女の子たちの食事会なんだ。リトも一緒に行こう」

「えっ、私も行っていいノ?」

「当たり前だよ」

私はバックミラー越しにリトを見る。

「リトはファミリーなんだから」

そう言うと、助手席の早苗も笑顔で振り向いた。

「うん! そうだよ。弘君も待ってるよ」

リトは照れくさそうに笑った。

「ありがとう!」

その一言には、素直な嬉しさが込められていた。

しばらくして焼肉屋へ到着すると、店の奥から弘が勢いよく手を振った。

「兄貴ー! こっちっす!」

私たちは奥のテーブルへ向かう。

弘は立ち上がると、リトの肩に軽く手を添えた。

「みんな、紹介するっす! この人がさっき話してたリトっす!」

みんなの視線がリトへ集まる。

するとリトは胸を張り、にっこり笑った。

「私がリトです! アッ、私が男前だからって、そんなに見ないでくださいヨ!」

一瞬の静寂。

次の瞬間、弘が吹き出した。

「あははっ! リト、相変わらずっすね!」

その声をきっかけに、店内は笑いに包まれた。

早苗も笑顔でみんなを紹介する。

「こっちが綾さん。隣が里奈ちゃん。それから真希ちゃん。最近入ってくれたんだよ。それと、こちらが新しく入った女の子」

リトは一人ひとりの顔を見ながら丁寧に頭を下げた。

「よろしくネ!」

ちょうどそのとき、店員が大皿いっぱいの肉を運んできた。

「お待たせしましたー!」

「待ってましたー!」

弘は嬉しそうに皿を受け取り、次々とテーブルへ並べていく。

網の上で肉が焼ける音が響き始める。

「たくさん食べてね」

綾さんは女の子たちへ優しく声を掛ける。

早苗も焼けた肉を取り分けながら笑った。

「リトも遠慮しないで、たくさん食べてね」

「ありがとう!」

リトは嬉しそうに頷く。

弘は真希ちゃんや女の子たちと笑い合い、綾さんと里奈ちゃんも楽しそうに会話を弾ませている。

早苗も、さっきまでの緊張が嘘のようにリトと冗談を言い合い、楽しそうに笑っていた。

私はそんな二人を静かに見つめる。

会わせて良かった。

心の底から、そう思った。

網の上で肉の焼ける音と、みんなの笑い声が心地よく重なっていた。

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