「紹介するよ」
私がそう言うと、リトは車から降りてきた早苗を見た瞬間、目を丸くした。
「アッ……!」
驚いたような表情を浮かべたあと、すぐに満面の笑みになる。
「サナエ!」
私は笑って頷いた。
「リト、紹介する。早苗だよ」
早苗は私の隣に立ち、優しく頭を下げた。
「初めまして。早苗です。いつもリトさんのお話は聞いてます」
するとリトは嬉しそうに早苗の前へ歩み寄った。
「私もサナエの話はナオトからイッパイ聞いてるヨ! 会えて嬉しいヨ!」
そう言って右手を差し出す。
早苗も笑顔で右手を差し出した。
握手を交わしたその瞬間、リトは早苗の手をそっと持ち上げた。
「えっ?」
少し驚く早苗。
リトは手の甲へ口を近づける。
――と思った次の瞬間。
くるりと自分の手を返し、自分の手の甲へ軽くキスをした。
「ハハッ!」
いたずらが成功した子どものような笑顔を浮かべるリト。
私と早苗は顔を見合わせると、思わず吹き出した。
「もう、びっくりした!」
早苗が笑いながら言う。
「ジョーダン、ジョーダン!」
リトも楽しそうに笑った。
さっきまで少し緊張していた早苗の表情は、もうすっかりほぐれていた。
私は二人を見て自然と笑みがこぼれる。
「それじゃ行こうか」
三人で車へ乗り込み、焼肉屋へ向かった。
車を走らせながら私は後部座席のリトへ声を掛ける。
「今日は店に入った新しいスタッフと女の子たちの食事会なんだ。リトも一緒に行こう」
「えっ、私も行っていいノ?」
「当たり前だよ」
私はバックミラー越しにリトを見る。
「リトはファミリーなんだから」
そう言うと、助手席の早苗も笑顔で振り向いた。
「うん! そうだよ。弘君も待ってるよ」
リトは照れくさそうに笑った。
「ありがとう!」
その一言には、素直な嬉しさが込められていた。
しばらくして焼肉屋へ到着すると、店の奥から弘が勢いよく手を振った。
「兄貴ー! こっちっす!」
私たちは奥のテーブルへ向かう。
弘は立ち上がると、リトの肩に軽く手を添えた。
「みんな、紹介するっす! この人がさっき話してたリトっす!」
みんなの視線がリトへ集まる。
するとリトは胸を張り、にっこり笑った。
「私がリトです! アッ、私が男前だからって、そんなに見ないでくださいヨ!」
一瞬の静寂。
次の瞬間、弘が吹き出した。
「あははっ! リト、相変わらずっすね!」
その声をきっかけに、店内は笑いに包まれた。
早苗も笑顔でみんなを紹介する。
「こっちが綾さん。隣が里奈ちゃん。それから真希ちゃん。最近入ってくれたんだよ。それと、こちらが新しく入った女の子」
リトは一人ひとりの顔を見ながら丁寧に頭を下げた。
「よろしくネ!」
ちょうどそのとき、店員が大皿いっぱいの肉を運んできた。
「お待たせしましたー!」
「待ってましたー!」
弘は嬉しそうに皿を受け取り、次々とテーブルへ並べていく。
網の上で肉が焼ける音が響き始める。
「たくさん食べてね」
綾さんは女の子たちへ優しく声を掛ける。
早苗も焼けた肉を取り分けながら笑った。
「リトも遠慮しないで、たくさん食べてね」
「ありがとう!」
リトは嬉しそうに頷く。
弘は真希ちゃんや女の子たちと笑い合い、綾さんと里奈ちゃんも楽しそうに会話を弾ませている。
早苗も、さっきまでの緊張が嘘のようにリトと冗談を言い合い、楽しそうに笑っていた。
私はそんな二人を静かに見つめる。
会わせて良かった。
心の底から、そう思った。
網の上で肉の焼ける音と、みんなの笑い声が心地よく重なっていた。

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