276話「はじめまして」

「それじゃサイトの掲載料やホームページの制作費、それに管理費なんかも分かりやすく書面にしなきゃね」

そう言うと早苗はパソコンを開き、キーボードに手を置いた。

「これがあれば営業もしやすくなるし、お店の人にも安心してもらえるからね」

私は感心しながら頷く。

「さすが早苗だな」

そのとき、一階から綾さんの声が聞こえてきた。

「ママー! ちょっといいですかー?」

「はーい!」

返事をした早苗は壁の時計を見ると、小さく声を上げた。

「あっ、駅に迎えに行く時間だ」

すると弘が勢いよく立ち上がる。

「あっ、それなら俺が行くっすよ!」

「えっ、いいの?」

「当たり前じゃないっすか!」

満面の笑みで答える弘に、早苗も嬉しそうに笑った。

「ありがとう。助かるー!」

早苗はそう言って部屋を出る。

弘も私に向かって軽く手を上げた。

「兄貴、行ってくるっす!」

「ああ。気を付けて行ってこいよ」

弘は元気よく頷き、早苗の後を追って部屋を出て行った。

しばらくすると、一階から綾さんたちの賑やかな声が聞こえ、

「行ってきまーす!」

という弘の元気な声が二階まで響いた。

静かになった部屋で、私は携帯電話を取り出した。

『今日はちょっと遅くなるけど、店は大丈夫か?』

送信して間もなく返信が届く。

『うん、大丈夫だよ。また帰ってくるときに連絡してね(^_^*)』

私は思わず笑みを浮かべた。

美緒らしい、優しい返事だった。

続けてリトへ電話をかける。

「仕事が終わったら迎えに行くから、マンションで待っててくれ」

「分かった、ナオト! それじゃ連絡待ってるネ!」

電話を切ると、私は窓際へ歩いた。

外は夕暮れから夜へと移り変わり、街の灯りが少しずつ増え始めている。

今日はいよいよ、早苗とリトが初めて顔を合わせる。

二人なら、きっと気が合う。

そんなことを思いながら目を閉じると、一階から聞こえる話し声や足音が心地よく耳に響き、私はいつの間にか眠りへ落ちていた。

◇

「あなた、起きて」

優しい声に目を開けると、そこには早苗が立っていた。

「もう店が終わる時間だよ」

私はゆっくりと身体を起こした。

「弘は?」

「ずっと送迎を手伝ってくれてたよ」

「そうか」

私はソファーへ移動する。

早苗は嬉しそうに一枚の書類を持ち上げた。

「おかげでサイトの説明書類も完成したよ」

「もう出来たのか」

「うん!」

その笑顔を見た瞬間、勢いよく階段を駆け上がる足音が聞こえた。

バタバタバタッ――。

「兄貴! 起きたんすね!」

弘が息を弾ませながら部屋へ飛び込んでくる。

「もうみんな行く準備できてるっす!」

「そうか」

「それと、いつもの焼肉屋、予約しておいたっす!」

得意げに胸を張る弘に、私は思わず笑った。

「仕事が早いな」

「当然っす!」

私は立ち上がり、携帯電話をポケットへしまう。

「それじゃ俺たちはリトを迎えに行くか」

すると弘が言った。

「あっ、俺、女の子たちを乗せて行くことになってるっす。焼肉屋まで送った後でいいっすか?」

そのとき早苗が私を見た。

「それじゃ私の車で二人で迎えに行こうよ」

私は頷く。

「そうだな」

そして弘に向き直る。

「女の子たちと里奈ちゃんたちを先に連れて行ってくれ。俺と早苗はリトと合流してから向かう」

「了解っす!」

弘は元気よく敬礼すると、再び階段を駆け下りて行った。

私はリトへ電話をかける。

「今から迎えに行く」

「分かった! 待ってるネ!」

電話を切ると、私は早苗の車の助手席へ乗り込んだ。

エンジンが静かに動き出し、車は夜の街へ滑り出す。

「リトの話はあなたからずっと聞いてるけど……」

運転しながら早苗が少し照れたように笑う。

「実際に会うってなると、少し緊張してきた」

私は笑って答えた。

「大丈夫だよ。話したまんまだから。陽気で、人懐っこくて、本当にいい奴なんだよ」

「ふふっ。ますます楽しみになってきた」

私は前方を見つめながら言う。

「次の交差点を右だ。その先のマンションだから」

「分かった」

早苗がハンドルを切る。

マンションの駐車場へ車を入れると、エントランスの前に、いつものようにリトが待っていた。

街灯に照らされたその姿は、こちらの車に気付くと大きく手を振る。

「ナオト!」

私は自然と笑みを浮かべた。

「リト」

そう呟いて助手席から降りると、私は早苗へ視線を向けた。

「紹介するよ」

早苗も静かに頷き、ゆっくりと車のドアを開けた。

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