「それじゃサイトの掲載料やホームページの制作費、それに管理費なんかも分かりやすく書面にしなきゃね」
そう言うと早苗はパソコンを開き、キーボードに手を置いた。
「これがあれば営業もしやすくなるし、お店の人にも安心してもらえるからね」
私は感心しながら頷く。
「さすが早苗だな」
そのとき、一階から綾さんの声が聞こえてきた。
「ママー! ちょっといいですかー?」
「はーい!」
返事をした早苗は壁の時計を見ると、小さく声を上げた。
「あっ、駅に迎えに行く時間だ」
すると弘が勢いよく立ち上がる。
「あっ、それなら俺が行くっすよ!」
「えっ、いいの?」
「当たり前じゃないっすか!」
満面の笑みで答える弘に、早苗も嬉しそうに笑った。
「ありがとう。助かるー!」
早苗はそう言って部屋を出る。
弘も私に向かって軽く手を上げた。
「兄貴、行ってくるっす!」
「ああ。気を付けて行ってこいよ」
弘は元気よく頷き、早苗の後を追って部屋を出て行った。
しばらくすると、一階から綾さんたちの賑やかな声が聞こえ、
「行ってきまーす!」
という弘の元気な声が二階まで響いた。
静かになった部屋で、私は携帯電話を取り出した。
『今日はちょっと遅くなるけど、店は大丈夫か?』
送信して間もなく返信が届く。
『うん、大丈夫だよ。また帰ってくるときに連絡してね(^_^*)』
私は思わず笑みを浮かべた。
美緒らしい、優しい返事だった。
続けてリトへ電話をかける。
「仕事が終わったら迎えに行くから、マンションで待っててくれ」
「分かった、ナオト! それじゃ連絡待ってるネ!」
電話を切ると、私は窓際へ歩いた。
外は夕暮れから夜へと移り変わり、街の灯りが少しずつ増え始めている。
今日はいよいよ、早苗とリトが初めて顔を合わせる。
二人なら、きっと気が合う。
そんなことを思いながら目を閉じると、一階から聞こえる話し声や足音が心地よく耳に響き、私はいつの間にか眠りへ落ちていた。
◇
「あなた、起きて」
優しい声に目を開けると、そこには早苗が立っていた。
「もう店が終わる時間だよ」
私はゆっくりと身体を起こした。
「弘は?」
「ずっと送迎を手伝ってくれてたよ」
「そうか」
私はソファーへ移動する。
早苗は嬉しそうに一枚の書類を持ち上げた。
「おかげでサイトの説明書類も完成したよ」
「もう出来たのか」
「うん!」
その笑顔を見た瞬間、勢いよく階段を駆け上がる足音が聞こえた。
バタバタバタッ――。
「兄貴! 起きたんすね!」
弘が息を弾ませながら部屋へ飛び込んでくる。
「もうみんな行く準備できてるっす!」
「そうか」
「それと、いつもの焼肉屋、予約しておいたっす!」
得意げに胸を張る弘に、私は思わず笑った。
「仕事が早いな」
「当然っす!」
私は立ち上がり、携帯電話をポケットへしまう。
「それじゃ俺たちはリトを迎えに行くか」
すると弘が言った。
「あっ、俺、女の子たちを乗せて行くことになってるっす。焼肉屋まで送った後でいいっすか?」
そのとき早苗が私を見た。
「それじゃ私の車で二人で迎えに行こうよ」
私は頷く。
「そうだな」
そして弘に向き直る。
「女の子たちと里奈ちゃんたちを先に連れて行ってくれ。俺と早苗はリトと合流してから向かう」
「了解っす!」
弘は元気よく敬礼すると、再び階段を駆け下りて行った。
私はリトへ電話をかける。
「今から迎えに行く」
「分かった! 待ってるネ!」
電話を切ると、私は早苗の車の助手席へ乗り込んだ。
エンジンが静かに動き出し、車は夜の街へ滑り出す。
「リトの話はあなたからずっと聞いてるけど……」
運転しながら早苗が少し照れたように笑う。
「実際に会うってなると、少し緊張してきた」
私は笑って答えた。
「大丈夫だよ。話したまんまだから。陽気で、人懐っこくて、本当にいい奴なんだよ」
「ふふっ。ますます楽しみになってきた」
私は前方を見つめながら言う。
「次の交差点を右だ。その先のマンションだから」
「分かった」
早苗がハンドルを切る。
マンションの駐車場へ車を入れると、エントランスの前に、いつものようにリトが待っていた。
街灯に照らされたその姿は、こちらの車に気付くと大きく手を振る。
「ナオト!」
私は自然と笑みを浮かべた。
「リト」
そう呟いて助手席から降りると、私は早苗へ視線を向けた。
「紹介するよ」
早苗も静かに頷き、ゆっくりと車のドアを開けた。

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