早苗は私を見つめ、感慨深そうに微笑んだ。
「あなたが執行猶予で出てきて、もうすぐ一年になるね」
私はコーヒーカップを持つ手を止める。
「ああ、そうだな。もう一年になるのか」
早苗は少し私の方へ座り直すと、そっと腕を絡めてきた。
「そうだよ。去年あなたが戻ってきた頃、こんな毎日になるなんて想像もしなかった」
そう言って私の肩へ静かに頭を預ける。
私はコーヒーを一口飲み、小さく息をついた。
「そうだよな。長かったようで、あっという間だったな」
早苗は顔を上げ、嬉しそうに笑う。
「ねえ、今度一年過ぎたお祝いしようよ。二人でご飯でも食べに行こう」
「そうだな。行くか」
「うん!」
早苗は子どものように嬉しそうな笑顔を見せた。
その時、一階から綾さんの声が聞こえてくる。
「ママ、ちょっといいですか!」
「はーい!」
早苗は返事をすると立ち上がり、私へ微笑んだ。
「ちょっと待っててね」
そう言って足早に部屋を出て行く。
部屋に静けさが戻る。
私はソファーにもたれ、ぼんやりと天井を見上げた。
執行猶予で外へ出てきたあの日。
先のことなど何一つ見えなかった。
それでも今、こうして毎日を過ごせている。
仕事があり、仲間がいて、笑って話せる場所がある。
思い返せば、その始まりにはいつも早苗がいた。
私を信じ、待ち続けてくれた。
だからこそ、今の自分がある。
私を信じてくれた人だからこそ、その笑顔を見るたび胸が痛む。
そんな早苗に、私は美緒とのことを隠し続けている。
感謝しているはずなのに、嘘を重ねている自分がいる。
矛盾している。
そう分かっていても、今はどうすることもできなかった。
考え込んでいると、部屋のドアが静かに開いた。
「どうしたの?」
戻ってきた早苗が私の顔を覗き込む。
「何かあった? 真剣な顔してるよ」
私は小さく首を振った。
「いや、何でもないよ。ちょっと仕事のこと考えてただけ」
そう言ってコーヒーカップへ手を伸ばす。
早苗は安心したように笑い、私の隣へ腰を下ろした。
「あんまり考え過ぎるとよくないよ。私でよかったら何でも話聞くから」
「ありがとう」
そう答えると、早苗は私の膝を軽く叩いた。
「あっ、それとね。綾さんが新しいスタッフになる人へ連絡してくれて、明日の午後ここへ連れてきてくれるって」
「さすが綾さん。話が早いな」
「うん。どんな人か楽しみだね」
嬉しそうに笑う早苗を見つめながら、私は小さく微笑んだ。
その笑顔を見ていると、また美緒のことが頭をよぎる。
私は静かにコーヒーを口へ運んだ。
今は──考えるのをやめよう。
そう自分に言い聞かせるように、私は窓の外へ目を向けた。

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