94話「これでいいんだ」

朝、目が覚めると早苗はすでに起きていた。

キッチンからコーヒーの匂いがする。

いつもの朝だった。

「おはよう、起きてる?コーヒー淹れたよ」

早苗が部屋に入ってきて私の枕元に座った。

「おはよう」

私は目を閉じたまま言った。

「ねぇ、今日は何時頃出かけるの?弘君も一緒?」

早苗は私に添い寝するように横になり、私の腕に頭を乗せる。

「そうだなぁ、昼くらいかな。それから弘と合流する予定だよ」

私は目を開け、天井を見上げたまま言った。

「あっ!それじゃ、昼ごはんつくるから弘君も一緒に食べようよ!ねっ、いいでしょ?」

早苗は手を叩き、起き上がりながら言った。

「…うん、そうだな。弘に連絡してみるよ」

そう言いながら、弘と恵美の顔が浮かんだ。

私はリビングのソファーに腰を下ろし、携帯電話を手に取り、じっと見つめる。

「コーヒー置いとくね」

早苗はマグカップをテーブルに置き、キッチンに戻った。

コーヒーを一口飲み、弘に連絡した。

「兄貴、お疲れっす!どうしたんすか?」

いつもの弘だ。

「お疲れ…今日、早苗が昼飯一緒に食べたいって言ってるけど来れるか?」

「あっ…はい、大介がいるから行けるのは、行けるっすけど…。」

「それじゃ昼頃出てこいよ、早苗が楽しみにしてるから」

「…了解っす。それじゃ…昼頃にお邪魔します」

弘の声のトーンは低かった。

「弘君来れるって?」

「うん、昼頃出てくるって」

「分かった!それじゃ準備するね!」

早苗はキッチンから顔を出して微笑み、すぐに鼻歌が聞こえてきた。

昼頃、インターホンが鳴った。

「はい、あっ!弘君、そのまま上がってきて」

早苗は受話器を持ったまま振り返り、

「弘君、来たよ!」

と嬉しそうに言った。

しばらくすると、

「お疲れです、弘でーす」

と玄関から声がした。

私が玄関に行くと、弘は目で合図するように軽く頭を下げた。

「弘君、久しぶり、上がって!」

早苗が私の肩越しに弘に言った。

「早苗姐さん、久しぶりっす!めっちゃ、いい匂いしてるっすね!」

いつもの調子で言い、靴を脱いだ。

三人でリビングに移動し、早苗はすぐにキッチンに向かう。

私と弘は当たり障りない会話をする。

「今日は店の方はどうだ?」

「はい、今んとこ夜に予約が五本入ってるっす」

そんなやりとりをしていると、

「お待たせー!出来たよ!」

と早苗が両手に皿を持ち、リビングに入ってきた。

「有り合わせで作ったんだけど、いっぱい食べてね」

そう言いながら、テーブルに皿を並べた。

私の好きな目玉焼き付きのナポリタンだった。

「美味そう!俺の超大盛りっすね!いただきまーす!」

弘はフォークで麺を啜りながら食べる。

「早苗姐さん、これ美味いっす!この目玉焼きがいいっすね!」

弘は口の周りをケチャップで赤くしながら言う。

「良かった、たくさん作ったからいっぱい食べてね」

「もちろん、おかわりするっす!」

早苗と弘は笑った。

何気ない光景だった。

私はそんな早苗と弘を見ながら、これでいいんだと思った。

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