45話「春の花びらと石鹸箱」

桜の花も満開に咲き、季節はすっかり春だ。淡いピンクの花びらがひらひらと舞い、ほのかな香りが春風に乗って漂う。

季節が変わるということは、陣さんや井原君が刑務所に移送されるのも近づいている。

早苗は「何それ」とケラケラ笑った。石鹸箱の話をしたからだ。

「石鹸箱買いに行きたいから付き合って」

と私が言うと、

早苗は「石鹸箱?どうして?」と不思議そうに首をかしげる。

拘置所での陣さんや井原君の話をすると、大の男、しかも暴力団が石鹸箱にこだわる。

それが滑稽で仕方ないらしい。

私が真面目な顔で見ていると、早苗は

「ごめん、ごめん。笑うところじゃないよね。それじゃ、私が選んであげる」と微笑んだ。

「今日、お仕事休みだから今から行こうよ!」

と手を叩きながら、楽しそうに準備を始める。

小さく「支度するね!」と呟く声に、私もつられて笑みがこぼれた。

早苗が選んだ石鹸箱はブランド物ではないが、シンプルでカッコいい物だった。

さすが早苗だ、センスが光る。

刑務所の浴場で井原君が誇らしげに石鹸箱を手にしている姿が浮かび、思わず胸が温かくなる。

買い物を済ませ、私たちは桜を見に公園へ向かった。

空は快晴で、ポカポカと心地よい陽気。

花見を楽しむカップルや家族連れの声が、春の空気に溶け込んでいる。

桜の花びらが風に舞い、手にふわりと触れるたびに幸せな気持ちが広がった。

早苗は歩きながら、花びらを手で受けとめて笑う。 

時折、冬の名残りか冷たい風が吹くが、二人でいるとその冷たささえも心地よく感じられる。

春の優しさと心の温かさがじんわりと胸に染み、こうして二人で過ごせる時間の幸福を、私は静かに噛みしめていた。

そして私は、明日から少しずつ、佐藤さんの頼まれた件の手がかりを集めていこうと、心の中でそっと決めた。

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