弘が出て行ったあと、早苗はコーヒーカップを手に私の隣へ腰を下ろした。
「あのね、口コミサイトのことなんだけど」
そう言ってコーヒーを一口飲むと、思い出したように続ける。
「昨日の夜、アッちゃんが来たって言ったでしょ?」
「うん」
私が頷くと、早苗はノートパソコンを開いた。
「それでね、アッちゃんと二人で最後の確認をしたの。不具合がないか一つずつ見直して、ようやく完成したんだ」
そう言ってパソコンを私の方へ向ける。
「えっ! 口コミサイトもできたのか?」
思わず声が出た。
「うん。あなたにサイトの話をした日から少しずつ作ってたの。分からないところはアッちゃんに電話で聞いたりしてね」
早苗は笑顔で画面を切り替え始めた。
そこに映し出されていたのは、この前見せてもらった人気口コミサイトにも引けを取らない完成度だった。
店の紹介や口コミ一覧、掲示板まで用意されている。
どのページも見やすく整理され、必要な情報が一目で分かる。
私は画面を見つめたまま、小さくつぶやいた。
「すごいな……」
「ほら、ここ見て」
早苗が画面の上を指差す。
そこには『茉莉花』と『花水木』、二つのバナーが並んでいた。
どちらもホームページと同じ色合いでデザインされ、店の雰囲気がひと目で伝わる仕上がりになっている。
「これも早苗がデザインしたのか?」
「うん。ホームページと統一感が出るように色を合わせてみたの」
照れくさそうに笑う早苗。
私は感心したように頷いた。
「これ、このままアップしても大丈夫なんじゃないか」
「本当?」
早苗の表情がぱっと明るくなる。
「良かった。あなたに見てもらってから公開しようと思ってたんだ」
私は画面から目を離し、早苗を見つめた。
「早苗……本当にすごいよ」
「ありがとう」
そう言って微笑んだあと、
「でも、アッちゃんにも感謝しなきゃね」
と優しく笑った。
そのとき、一階で玄関の扉が開く音がした。
「お疲れっす!」
弘の元気な声が聞こえ、軽快な足音が階段を駆け上がってくる。
ドアが開き、弘が部屋へ入ってきた。
「早かったな」
「おかえり」
私と早苗が声をかける。
「ただいまっす!」
弘は笑顔で答え、ソファーへ腰を下ろした。
私はすぐに尋ねる。
「ローズファミリーはどうだった? 気に入ってたか?」
早苗も期待した表情で弘を見つめる。
「ホームページは、めちゃくちゃ綺麗だって驚いてたっす」
弘はそう言うと、少し笑って続けた。
「それだけじゃなくて、今田さん、兄貴や俺と同じだったんすよ」
「同じ?」
私と早苗が顔を見合わせる。
「最近パソコン買ったらしいんすけど、ホームページをどうやってアップするのか全然分からないって言うんすよ」
私は思わず笑ってしまった。
「お前、そういうとき必ず俺を引き合いに出すよな」
早苗も吹き出し、部屋に笑い声が広がる。
笑いが落ち着くと、弘は話を続けた。
「それで今田さんが、『ホームページを管理してくれるところってありませんか?』って聞いてきたんすよ」
「それで、何て答えたんだ?」
「兄貴から前に言われたじゃないっすか。知り合いの会社が近々、風俗口コミサイトを始める予定だって言えって」
私は頷く。
「だから、そのサイトで管理もできるようになると思いますって話したんす。そしたら今田さん、『ぜひお願いしたいです』って言ってくれたんすよ!」
「お前、なかなかやるじゃないか」
私は嬉しくなって笑った。
「ちゃんと俺と話したこと覚えてたんだな」
「当たり前じゃないっすか!」
弘は胸を張る。
「兄貴から言われたことはちゃんと覚えてるっすよ」
私は早苗へ顔を向けた。
「早苗、また仕事が増えるけど大丈夫か?」
早苗は少しだけ考えるように微笑み、私たち二人を見た。
そして力強く頷く。
「任せて!」
その一言を聞いた私は思わず笑みを浮かべた。
一つのホームページを作ったことが、新しい仕事へとつながっていく。
そんな未来を想像すると、不思議と胸が高鳴っていた。

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