273話「任せられる仲間」

里奈ちゃんが身支度を整え、玄関へ向かう足音が一階から聞こえてきた。

「早苗ー! 予約の時間になったから行ってくるね!」

元気いっぱいの声が二階まで届く。

「はーい!」

早苗は返事をすると部屋を出て階段を下りながら、

「行ってらっしゃい。気をつけてね!」

と声をかけた。

すると一階から弘の声も聞こえてくる。

「行ってらっしゃい!」

「行ってきまーす!」

里奈ちゃんの明るい返事とともに玄関の扉が閉まる音が響いた。

しばらくして階段を上がってくる足音が聞こえ、早苗と弘が笑いながら部屋へ戻ってきた。

「里奈さんって、本当にいつも元気っすよね」

弘が苦笑いしながら言う。

「うん。学生の頃からずっとあんな感じなの。周りまで明るくしちゃう子なんだよね」

早苗も笑いながら答えた。

その笑顔を見ていると、私まで自然と頬が緩む。

「あっ、そうだ」

早苗は思い出したようにノートパソコンを開き、弘の方へ向きを変えた。

「ホームページ完成したから、弘君も見てみて。」

「はい、見たいっす!」

弘はソファーへ腰を下ろし、画面を覗き込む。

早苗はトップページを開き、一つひとつページを切り替えながら説明を始めた。

店内の写真が映し出されると、弘は思わず「おぉ……」と小さく声を漏らす。

女の子紹介のページへ切り替わるたびに、弘は何度も頷きながら真剣な表情で画面を見つめている。

説明が終わると、弘は目を丸くして言った。

「これ、すごいっすね!」

画面から目を離さないまま続ける。

「これ見せたらローズファミリーの今田さんもビックリするっすよ」

そして早苗へ顔を向けると、満面の笑みを浮かべた。

「早苗姐さんって、やっぱすごいっす」

「そんなことないよ」

早苗は照れくさそうに笑う。

「私一人じゃ作れなかったし、アッちゃんにも教えてもらったからね」

私はコーヒーを口に運びながら頷いた。

「俺も弘も申し分ないと思う。このままローズファミリーに見せていいんじゃないか」

「もちろんっす!」

弘も力強く頷く。

「ありがとう。」

早苗は嬉しそうに微笑むと、パソコンへ向き直りデータのコピーを始めた。

部屋には静かなキーボードの音が響く。

私はコーヒーを飲みながら弘とローズファミリーの話をして待っていた。

ほどなくして早苗が顔を上げる。

「よしっ、終わったよ」

そう言ってデータを入れた茶封筒をテーブルへ置いた。

「もう終わったんすか?」

弘は驚いたように封筒を手に取る。

「それじゃ俺、今からローズファミリーへ行ってくるっす」

「今からか?」

私が聞くと、弘は迷いなく頷いた。

「はい。こういうのは早い方がいいっす。兄貴はここで待っててください。俺一人で行ってくるっす」

私は少し笑って言った。

「分かった。気をつけて行けよ」

「了解っす!」

弘は元気よく返事をすると、茶封筒を大事そうに抱えて部屋を出て行った。

早苗も廊下へ出て見送る。

「弘君、気をつけてね!」

「はーい!」

階段を駆け下りる軽快な足音が聞こえ、やがて玄関の扉が開いて閉まる音がした。

部屋に静けさが戻る。

私は窓から車に乗り込む弘を見てふと微笑んだ。

あの頃は、何でも自分一人で抱え込んでいた。

けれど今は違う。

任せられる仲間がいる。

それが何よりも嬉しかった。

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