259話「それぞれの役割」

「うん。早苗が作ることになる」

私がそう答えると、弘は目を見開いた。

「すげー! 早苗姐さん、こんなの作るって天才じゃないっすか!」

早苗は照れくさそうに笑いながら首を横に振る。

「そんなことないよ。お店のホームページとは全然違うから、もっと勉強しなきゃなんだよね」

そう言うと、早苗は私へ視線を向けた。

「ほら、私と里奈の学生の頃から仲が良かったアッちゃんって覚えてる? あなたも一度会ったことあるでしょ?」

私は少し考えてから頷いた。

「ああ、里奈ちゃんが働いてたプールバーで一緒に飲んだ、アッちゃんだろ?」

「そうそう、あのアッちゃん」

早苗は嬉しそうに笑う。

「大学を卒業してホームページ制作なんかの仕事に携わってるの。分からないことがあると、いろいろ教えてもらってるんだ」

「ああ、アッちゃんなら似合ってそうな仕事だな」

私は思わず笑みを浮かべた。

その時、一階から綾さんの声が聞こえてきた。

「ママー! ちょっと予約のノート見せてもらっていいですかー?」

「はーい! 今行きまーす!」

早苗は返事をすると、私たちへ向き直った。

「ちょっと下に行ってくるね」

予約ノートを手に取り、足早に部屋を出て行く。

弘はその背中を見送りながら笑顔で言った。

「行ってらっしゃい」

やがて部屋が静かになると、弘は私へ向き直る。

「茉莉花も順調そうっすね」

「うん。早苗や里奈ちゃん、それに綾さんのおかげだよ」

私はコーヒーを一口飲んでから続けた。

「あっ、そうだ。明日、新しいスタッフを綾さんから紹介してもらうことになってるんだ」

「そうなんすか」

「お前も会っておいた方がいいだろうから、明日ここへ来いよ」

「了解っす!」

弘はそう答えると、一度ドアの方へ視線を向けた。

誰もいないことを確かめるようにしてから、少し声を潜め、私へ顔を近づける。

「それじゃ……俺が兄貴を迎えに行ってから、一緒に来た方がいいっすよね?」

私も一度ドアへ目を向け、小さく頷いた。

「ああ。それじゃ明日の昼前に迎えに来てくれ」

美緒のマンションとは、お互い口にしない。

それでも言葉にしなくても伝わるものがあった。

弘は静かに頷く。

私は話を切り替えるように口を開いた。

「早苗の話を聞いて、サイトの仕組みは大体分かっただろ?」

「はい。大体は分かったっす」

「それでな」

私は弘の目を真っ直ぐ見た。

「サイトに掲載する店を増やすための営業を、お前がしてくれないか」

弘は驚いたように目を丸くした。ふ

しばらく黙ったまま私を見つめ、それからゆっくりと口を開く。

「……俺っすか? 本当に俺でいいんすか?」

「サイトを作れって言ってるんじゃない」

私は苦笑いを浮かべた。

「そんなこと俺だって出来ない」

弘は思わず吹き出した。

「そうっすよね。兄貴も出来っこないっすよね」

「お前な、そういうところだけはハッキリ言うよな」

二人で顔を見合わせ、思わず笑った。

笑いが落ち着くと、私は少し真面目な表情になる。

「でも営業は違う。お前、人と話すのが上手いだろ。初対面でもすぐ打ち解けるし、相手に好かれる。それは誰にでもある才能じゃない」

弘は照れくさそうに頭をかいた。

「そうっすかねぇ」

「そういう才能だからこそ任せたいんだ」

私は一呼吸置いて続けた。

「ただし、営業するときは俺たちがやってるとは言うな。『知り合いがやっている会社です』って説明しろ。会社名を聞かれたら、LINK CORPORATIONって言えばいい」

弘は真剣な表情で大きく頷いた。

「分かりました。俺、頑張ってみます」

その返事を聞きながら、私は静かにコーヒーカップへ手を伸ばした。

少しずつではあるが、それぞれの役割が形になり始めていた。

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