「うん。早苗が作ることになる」
私がそう答えると、弘は目を見開いた。
「すげー! 早苗姐さん、こんなの作るって天才じゃないっすか!」
早苗は照れくさそうに笑いながら首を横に振る。
「そんなことないよ。お店のホームページとは全然違うから、もっと勉強しなきゃなんだよね」
そう言うと、早苗は私へ視線を向けた。
「ほら、私と里奈の学生の頃から仲が良かったアッちゃんって覚えてる? あなたも一度会ったことあるでしょ?」
私は少し考えてから頷いた。
「ああ、里奈ちゃんが働いてたプールバーで一緒に飲んだ、アッちゃんだろ?」
「そうそう、あのアッちゃん」
早苗は嬉しそうに笑う。
「大学を卒業してホームページ制作なんかの仕事に携わってるの。分からないことがあると、いろいろ教えてもらってるんだ」
「ああ、アッちゃんなら似合ってそうな仕事だな」
私は思わず笑みを浮かべた。
その時、一階から綾さんの声が聞こえてきた。
「ママー! ちょっと予約のノート見せてもらっていいですかー?」
「はーい! 今行きまーす!」
早苗は返事をすると、私たちへ向き直った。
「ちょっと下に行ってくるね」
予約ノートを手に取り、足早に部屋を出て行く。
弘はその背中を見送りながら笑顔で言った。
「行ってらっしゃい」
やがて部屋が静かになると、弘は私へ向き直る。
「茉莉花も順調そうっすね」
「うん。早苗や里奈ちゃん、それに綾さんのおかげだよ」
私はコーヒーを一口飲んでから続けた。
「あっ、そうだ。明日、新しいスタッフを綾さんから紹介してもらうことになってるんだ」
「そうなんすか」
「お前も会っておいた方がいいだろうから、明日ここへ来いよ」
「了解っす!」
弘はそう答えると、一度ドアの方へ視線を向けた。
誰もいないことを確かめるようにしてから、少し声を潜め、私へ顔を近づける。
「それじゃ……俺が兄貴を迎えに行ってから、一緒に来た方がいいっすよね?」
私も一度ドアへ目を向け、小さく頷いた。
「ああ。それじゃ明日の昼前に迎えに来てくれ」
美緒のマンションとは、お互い口にしない。
それでも言葉にしなくても伝わるものがあった。
弘は静かに頷く。
私は話を切り替えるように口を開いた。
「早苗の話を聞いて、サイトの仕組みは大体分かっただろ?」
「はい。大体は分かったっす」
「それでな」
私は弘の目を真っ直ぐ見た。
「サイトに掲載する店を増やすための営業を、お前がしてくれないか」
弘は驚いたように目を丸くした。ふ
しばらく黙ったまま私を見つめ、それからゆっくりと口を開く。
「……俺っすか? 本当に俺でいいんすか?」
「サイトを作れって言ってるんじゃない」
私は苦笑いを浮かべた。
「そんなこと俺だって出来ない」
弘は思わず吹き出した。
「そうっすよね。兄貴も出来っこないっすよね」
「お前な、そういうところだけはハッキリ言うよな」
二人で顔を見合わせ、思わず笑った。
笑いが落ち着くと、私は少し真面目な表情になる。
「でも営業は違う。お前、人と話すのが上手いだろ。初対面でもすぐ打ち解けるし、相手に好かれる。それは誰にでもある才能じゃない」
弘は照れくさそうに頭をかいた。
「そうっすかねぇ」
「そういう才能だからこそ任せたいんだ」
私は一呼吸置いて続けた。
「ただし、営業するときは俺たちがやってるとは言うな。『知り合いがやっている会社です』って説明しろ。会社名を聞かれたら、LINK CORPORATIONって言えばいい」
弘は真剣な表情で大きく頷いた。
「分かりました。俺、頑張ってみます」
その返事を聞きながら、私は静かにコーヒーカップへ手を伸ばした。
少しずつではあるが、それぞれの役割が形になり始めていた。

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