52話「連れ出される夜」

マンションに帰りドアを開けると、カレーのいい匂いがした。

「おかえりー」

早苗がエプロン姿でキッチンから顔を出す。

早苗のカレーは市販のルーを使わない本格的なものだ。

「今日はカレーだよ。もうできるからね」

料理している早苗を眺めながら、また恵美さんの件を考えていた。

まともな仕事をしているとは思えない。

何か危険な匂いがする。

でも確実な情報を持っている。

チャンスを逃したくないが、今の自分は執行猶予の身だ。

「ねぇ!聞いてる?」

早苗が腕組みして私を見ている。

「何かあったの?」心配そうな顔になる。

「いや、何もないよ。今からの予定を考えていただけ」

と誤魔化した。

「そっか、カレーできたから食べよう!スパイスと愛情たっぷり入ってるから」

早苗はウインクした。

カレーを食べながら、今夜また二人目の人と会う約束があると嘘をついた。

迎えには行けるからと言うと、口をモゴモゴしながらスプーンを持ったまま笑顔で万歳した。

約束の時間前にBARに着いた。

年季の入った扉を開けると煙草と洋酒の混じった匂いがした。

カウンターの中にいるマスターは軽く頭を下げた。

恵美さんは一番奥にいた。

灰皿に置いた煙草の煙がライトに照らされ静かに揺らいでいる。

恵美さんはワイングラスをゆっくり回しながら、

「早かったじゃない」

と言い私を見た。

私は隣に座り、マスターにジントニックを注文した。

「お願いって何ですか?」と聞いてみた。

恵美さんはワインを口に含み、ゆっくりと飲んだ。

「ちょっと私の仕事を手伝ってほしいの」

と微笑んだ。

「どんな仕事なんですか?」

「そんなに慌てなくても、ゆっくり説明するから」

と笑った。

「ちょっと付いてきて」 

そう言って恵美さんは席を立ち店を出た。

私は黙って付いて行くしかなかった。

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