井原君からの手紙を読み返す。
朝の静まりかえった部屋に、コーヒーメーカーのコポコポという音だけが響いている。
これが最後の面会になるのかと考えながら、拘置所へ出かける支度をする。
拘置所に着き建物を眺めていると、ここで過ごした日々を思い出した。
この塀ひとつに隔てられた向こう側は別世界だ。
つい最近までいた塀の中の生活が、今は遠い昔のような感覚だった。
待合室で、最後に何を話せばいいのか、井原君はどのような心境なのだろうかと考えていた。
面会室に入ってきた井原君は、想像とは違い明るい笑顔だった。
「石鹸箱ありがとうございます!」
とても嬉しそうに言った。
「あれカッコいいです。あんなの誰も持ってないですよ!」
と言って笑った。
私は、もっと別れのしんみりとした感じを想像していたので少し拍子抜けした。
「ここに居ても何も始まりませんし、さっさと行って早く戻れるようにします。多分、満期ですが」
そう言いながら笑った井原君は、面会室を出て行く時に「行ってきます」と頭を下げた。
元気づけようと思っていたが、逆に井原君から元気をもらった。
拘置所からの帰り、恵美さんのお願いのことを考えていた。
どんなお願いなのか見当もつかない。
今日連絡する約束になっているので、とりあえず電話をかけることにする。
早苗には恵美さんのことを伏せているため、帰る前に連絡することにした。
恵美さんはすぐに電話に出た。寝起きなのか、気怠げに喋った。
昨夜のBARで待ち合わせすることになった。

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