42話「転がり始めた歯車」

拘置所を出てから一週間が過ぎた。
初めは感動や戸惑いに包まれていた日常にも、すっかり慣れてしまっていた。

陣さんは別の拘置所へ移送されていた。高速道路と都市高速を使っても一時間ほど離れた場所だった。


井原君と陣さんの面会や手紙のやり取りで、毎日が忙しく過ぎていった。夜は手紙を書くのが日課になっていた。

あるとき早苗が聞いた。
「面会に行ってるのに、手紙で書くことあるの?」

拘置所の中にいると、面会や手紙は本当に嬉しいものだ。張り合いにもなる。
「俺も早苗から手紙が届いたらすごく嬉しかったし、何度も読み返してたよ」
そう話すと、早苗は嬉しそうに微笑んだ。

今回、本当に早苗には助けられた。留置場の頃から面会に足を運び、差し入れもしてくれた。
そのおかげで惨めな思いをすることもなかった。
嬉しそうにしている早苗を見て、愛おしく思った。

仮の職場の目処も何とかついた。
料理の世界にいた頃、目をかけてくれていた先輩が、住んでいる地域から車で一時間ほど離れた飲み屋街で居酒屋を営んでいた。
今日はそこへ行く約束をしていた。

離れた場所の方が、保護司が来ることもなく都合が良かった。
早苗を仕事場へ送り、その足で先輩の居酒屋へ向かった。

店はこじんまりとしていて、賑わっている様子ではなかった。
これまでの経緯を話すと、籍を置かせてもらえることになり、保護司から連絡が来ても対応してくれるという。

先輩の話では、店の大家は暴力団関係者で、毎日のように顔を出すらしい。
「もうすぐ来る時間だから紹介しておく」と言われた。

また関係者か、と思った。
だが現れたのは、一見すると優しそうな初老の男性だった。

この出会いが、後に自分の人生を思いもよらない方向へ運んでいくことになるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。

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