37話「ゼリーの覚悟…行ってきます」

求刑が告げられた公判の翌日も、いつもと変わらない一日が始まった。

でも昨日までとは、自分の中で何かが違っていた。

四か月程呼ばれた「25番」。

また新しい番号で呼ばれるのか、それとも名前で呼ばれる世界に戻れるのか。

食事をしながら、そんなことを考えていた。

何をするにしても、刑務所・懲役という言葉がつきまとう。

いつものように座っていても、刑務所に行くとこの時間は作業の時間で、髪型も丸坊主。

釈放された時の想像は浮かばず、浮かぶのは刑務所にいる場面ばかりだった。

そんな自分を見て、井原君が気遣いながら言った。

「もし実刑になっても、初犯だから三分の一務めたら仮釈の対象になりますよ。

未決通算も初犯は累犯者よりも多くもらえるから、一年くらい務めたら大丈夫ですよ。

自分の四、五年と比べたらあっという間ですよ」

明るい笑顔に励まされる。

私は平静を装っていたが、井原君には心境の変化が分かっているようだった。

知り合ってまだ日が浅いのに、前から知ってるような、通じるものがある気がした。

日にちが経つごとに、覚悟が少しずつ固まりつつあるような気がした。

まだ固まるというか、液体がゼリーくらいの状態だが。

時間がすべてを解決するとよく聞くが、このとき初めて、その言葉を実感した。

何気ない拘置所の日常を過ごし、いよいよ判決公判の日の朝が来た。

食事を終え、いつものように座ろうとすると井原君が神妙な顔で聞いてきた。

「荷物、片付けなくていいですか?」

拘置所では、執行猶予で出る者は裁判所から房に戻ることがない。

残った者が荷物を片付け、担当に渡す決まりだ。

だから執行猶予で出る者は、裁判所に行く前にきれいに片付け、房のみんなに挨拶してから出発する。

私は腹を決めていた。覚悟もできていた。

「いや、片付けなくていいですよ。すぐに戻ってきますから」

少し明るく言うと、井原君は黙って笑顔で頷いた。

ガチャガチャと音がした。

よしっ。行くか。

井原君に「行ってきますね」と声をかけると、彼は黙って手を差し出した。

固く握手をして、廊下に出た。

コメント

タイトルとURLをコピーしました