12話「一人ではなかった夜」

房に入った瞬間、目が合った。留置場で一緒に過ごした、あの人だった。

刑務官が施錠を済ませて立ち去ると、お互いに自然と笑顔がこぼれた。

自分が座る位置も、すでに決められていた。

急いで腰を下ろすと、小声でこう言われた。

「朝からずっと怒鳴られてたなぁ」

そう言って、その人は笑った。

留置場でよく雑談をしていた、暴力団組員だった。

さらにもう一人、留置場で一緒だった年配の人――お爺さんも、この房にいた。

さっきまであれほど張りつめていた空気が、少しずつやわらぎ、部屋全体が安堵感に包まれていった。

その暴力団組員の人は、これまで何度も拘禁生活を経験している、いわゆる「懲役太郎」だった。

何度も刑務所に行ったことのある人、という意味だ。

お爺さんは、三十年前に一度だけ、拘置所まで経験したことがあると言っていた。

暴力団組員の人に、小声であれこれ質問していると、

また、あの唸るような声が響いてきた。

一人だったら、またあたふたしていたと思う。

でも、もう一人じゃない。それだけで、心強さがまるで違った。

お爺さんは、さっとやかんを用意し、正座をして待っていた。

その唸り声が、何を意味しているのかも教えてもらった。

ほどなくして、お茶が配られ、そのあとすぐに夕食が運ばれてきた。

今日の夕食は、ハムエッグに、きんぴらごぼう。味噌汁と、麦の入ったご飯。

正直、ご馳走だと思った。

拘置所は、食事だけはいい。温かくて、量も多い。

食事をしながら話を聞いていると、

この部屋は、もともと三人で生活していたらしい。だが、そのうちの一人が、午後に保釈で出たという。

その代わりに、急遽、自分がこの部屋に入ることになったそうだ。

拘置所には、二人部屋はないらしい。

二人だと、喧嘩になったときに止める者がいないこと。それに、同性愛者の問題もあるからだと教えられた。

食事のあと、午後五時になると、冬の間だけ布団を敷いて入っていいという。寒さ対策らしかった。

三人になってからは、怒鳴られることはなかった。

もし、あのまま一人だったら。そう考えると、ゾッとした。

夜になると、スピーカーからラジオが流れた。

九時になると、また、あの唸るような声が響いた。

「消灯ー!」

ガチャン、という音がして、部屋は少し暗くなった。

拘置所では、完全に電気が消えることはない。

正確には、消灯ではなく「減灯」だ。

常に監視できるよう、明かりは残されているのだという。

午前中は、この先どうなるのかと思っていた。だが午後、まさかの再会があった。

この日の終わりに、そう思えたことが、本当にありがたかった。

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