昼食を食べ終え、食器を返したあと、思っていたよりも早く静けさが戻ってきた。
留置場では、食事のあとはどこかざわついていた。
話し声、足音、職員の声。
何かしらの「動き」が、必ずあった。
だが拘置所では違った。
全員が同じ時間に、同じことをしているはずなのに、そこには余計な音がほとんどなかった。
静かすぎて、自分の咀嚼音や呼吸のほうが気になるほどだった。
この場所では「待つ」という行為が、よりはっきりとした形を持っている気がした。
拘置所には「午睡」と呼ばれる時間があり、昼食のあとは布団を敷いて横になる決まりだった。
布団を敷いたとき、その重さの理由が分かった。
製造年月日が手書きで縫い付けてあり、自分の布団には「昭和41年」と記されていた。
今まで何百人という人間が使ってきたのだろう。
汗や時間が染み込み、その分だけ重くなっているように感じた。
拘置所に入ってすぐは私物が使えず、下着なども官から貸与される。
それもまた、何百人と使われてきたものだった。
ゴムはすっかり役目を果たしておらず、ユルユルで、身につけている意味があるのか分からないほどだった。
生まれて初めて「パッチ」というものも履いた。
どんなものでもいいから、とにかく着込まなければ寒さをしのげなかった。
布団をかぶると、それだけで少し寒さが和らいだ。
横になり、これから先、右も左も分からないままどうなっていくのだろうかと考えているうちに、午睡の時間は終わっていた。
布団を片付け、次は何があるのだろうと身構えていたその時、いきなりドアの施錠がガチャガチャと解除された。
「25番! 荷物をまとめて外に出ろ!」
えっ、何?
どこへ連れて行かれるのか。
テンパりながら慌てて荷物をまとめていると、
「早くしろ! この馬鹿が!」
怒声が飛んできた。
とにかく急いで廊下に出ると、壁に顔がギリギリ触れるほどの位置に立ち、気をつけをするよう命じられた。
刑務官がドアの施錠を済ませると、
「回れ右!」
回れ右をすると、
「前へ進め!」
号令に従って進み、
ある房の前で止まれと命じられた。
そしてまた、壁に向かって気をつけ。
施錠が解除されると、
「回れ右。中へ入れ。」
言われるがまま房に入った瞬間、
そこに懐かしい顔があった。
留置場で一緒に過ごした人だった。
さっきまで張りつめていた不安が、
一気に吹き飛んだ。

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